プリズム

数理的アプローチ


Sealed-Bid Second-Price Auctionの支配戦略($x_i=w_i$)

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Sealed-Bid Second-Price Auctionとは、次のような状況を扱う一つの方法である。

状況

ある品物を売りたい人とそれを買いたい$p$人の人がいる。$P=\{1,\ldots,p\}$とおく。その品物の売り手の価値は$r$で、買い手の価値は$w_1, w_2, \ldots, w_p$である。ただし、$0 \lt r\le w_p \le w_{p-1} \le \cdots \le w_1$とする。売り手$i \in P$はその品物の自分の希望購入価格$x_i \left( r \le x_i\right)$を他の売り手の希望購入価格を知らずに告げる。

Sealed-Bid Second-Price Auctionとは、「最大の希望購入価格を提示した売り手に2番目に高い希望購入価格でその品物を売る」方法である。(詳しい説明は下記の証明内を参照。)

基本事項

このSealed-Bid Second-Price Auctionにおいて、自分の価値を告げる戦略$x_i=w_i$は支配戦略(dominant strategy)である。

(基本事項の証明)

売り手をプレイヤーと呼ぶ。プレイヤー$i$の戦略空間(戦略の集合)は$X_i=\left[ r, \infty \right) \left( i \in P \right)$、利得関数$K_i : \Pi_{i=1}^p X_i \to \mathbb{R} \left( i \in P \right)$は

$K_i(x) = \left\{ \begin{array} {ll} 0 & \left( i \not= i^*(x) \right) \\ w_i – M \left( x_{-i} \right) & \left( i = i^*(x) \right) \end{array} \right. $

ただし、$x= \left( x_1, \ldots, x_p \right)$であり、最大の希望購入価格を告げたプレイヤーの集合は$I^*(x) = \{ j | x_j = \max \left\{ x_1, \ldots, x_p \} \right\}$であり、

$i^*(x)$は、品物の購入者、詳しくは、$I^*(x)$の要素の個数が1個ならばその要素、$I^*(x)$の要素の個数が2個以上ならばあらかじめ決められたルール(例えば、ランダムに選ぶ、番号が一番若いプレイヤーを選ぶ、等々)で選ばれた$I^*(x)$の要素である。

また、プレイヤー$i$以外の希望購入価格の最大値は$M\left(x_{-i}\right) = \max \{ x_j | j \in P – \{ i \} \}$である。$i=i^*(x)$の場合、$M\left(x_{-i}\right)$は2番目に高い希望購入価格となる。

さて、ある戦略$y_i \left( \in X_i \right)$がプレイヤー$i \left( \in P \right)$の支配戦略であるとは、「他のプレイヤーがどんな戦略をとっても、自分はその戦略$y_i$をとる方が自分の他の戦略をとるよりも自分の利得が同じか大きくなること」である。式で書けば、

全ての$x \in \Pi_{i=1}^p X_i$に対して、$K_i(x_{-i},y_i) \ge K_i(x)$

ただし、$(x_{-i},y_i)$は$x$の第$i$成分$x_i$を$y_i$に置き換えたものである。また、$x_{-i}$は$x$の第$i$成分以外を表す。

さて、全ての$x \in \Pi_{i=1}^p X_i$に対して、$K_i(x_{-i},w_i) \ge K_i(x)$を証明する。

$K_i(x)$を($x_{-i}$を任意に固定して)$x_i$の関数とみなす。

  1. $i \not= i^*(x)$(すなわち、$x_i \lt M\left(x_{-i}\right)$、または、$x_i = M\left(x_{-i}\right), i \not= i^*(x)$)ならば、$K_i(x)=0$である。
  2. $i=i^*(x)$(すなわち、$x_i \gt M\left(x_{-i}\right)$、または、$x_i = M\left(x_{-i}\right), i=i^*(x)$)ならば、$K_i(x) = w_i – M\left(x_{-i}\right)$である。

すなわち、$K_i(x)$は多くても2値($0$と$w_i – M\left(x_{-i}\right)$)をとる$x_i$の関数であり、$x_i = M\left(x_{-i}\right)$で$0$から$w_i – M\left(x_{-i}\right)$へジャンプする。

  1. $w_i \lt M\left(x_{-i}\right)$ならば、$K_i(x_{-i},w_i) = 0 = \max \left\{w_i – M\left(x_{-i}\right), 0 \right\} \ge K_i(x)$である。
  2. $w_i \gt M\left(x_{-i}\right)$ならば、$K_i(x_{-i},w_i) = w_i – M\left(x_{-i}\right) = \max \left\{w_i – M\left(x_{-i}\right), 0 \right\} \ge K_i(x)$である。
  3. $w_i = M\left(x_{-i}\right)$ならば、$K_i(x_{-i},w_i) = 0 = K_i(x)$である。

下図を参照。

SecondPriceAuction

以上より、全ての$x \in \Pi_{i=1}^p X_i$に対して、$K_i(x_{-i},w_i) \ge K_i(x)$が示された。(証明終わり)

参考

Sealed-Bid First-Price Auctionには支配戦略がない。Sealed-Bid First-Price Auctionとは、「最大の希望購入価格を提示した売り手に1番高い希望購入価格でその品物を売る」方法である。Sealed-Bid First-Price Auctionの利得関数は

$K_i(x) = \left\{ \begin{array} {ll} 0 & \left( i \not= i^*(x) \right) \\ w_i – x_i & \left( i = i^*(x) \right) \end{array} \right. $

例えば、

  1. $w_i \lt M\left(x_{-i}\right)$ならば、$i \not= i^*(x)$となるように、すなわち、$x_i \in \left[ r, M\left(x_{-i}\right) \right]$で$i \not= i^*(x)$となるようにする方が利得が高い。
  2. $w_i \gt M\left(x_{-i}\right)$ならば、$i = i^*(x)$となるように、すなわち、$x_i \in \left[M\left(x_{-i}\right),\infty \right)$で$x_i$をなるべく小さくし、$i = i^*(x)$となるようにする方が利得が高い。

下図を参照。

FirstPriceAuction

(少なくとも、$M\left(x_{-i}\right)$に依存するので)$x_{-i}$に依存せずに、上記の1と2を同時に満たす$x_i$は存在しないので、支配戦略はない。